猫沢エミのインスタグラム(necozawaemi) - 4月26日 00時22分
平野啓一郎『ある男』読了。
ここ10年、人から頂いたものを除き、私が読んでいたのは、外国人作家の翻訳物か学術書の類がほとんどで、日本人作家の小説からなぜか離れていたのだけど、先日、ある面白い友人がこれを『面白い!』と言っているのを見て、面白い人が面白いと言うならば、きっと面白いに違いないと、ややこしい感じで手に取った。読んでみてまず思ったことは、一番ややこしくなっていたのは、他でもない自分だったなということ。
この物語には、何人かの《名前を交換した人》が登場する。その理由を追って、ある弁護士が謎を突き止めていく過程で、彼自身が自分の存在について、深く洞察する心の旅路が描かれる。
読み始めてすぐに感じたのは、実存主義の提唱者、哲学家 サルトルの『嘔吐』だった。存在の意味に、それ以上も以下もないという、感情的な救いを一切排除した、一見殺伐の極みのようでいて、これ以上人間の孤独をいたわる深い優しさはない名著。
震災、人種差別、セックスレス…現代日本に横たわる危機的な問題を丁寧に扱いながら、個としての人間と、社会の中に点や線として生きる人間の存在を、ミクロからマクロまでの内と外、同じ圧をもってして描き出している。こんな奥深いテーマを、水のような浸透力で読み易く紡ぐ平野さんの誠実さに胸を打たれた。
お偉方が書いたものを、いくら読んでもまったく入ってこなかった『死刑廃止論』についても物語では触れられているが、ストンと石が投げ込まれたように腑に落ちた。これもまた、人間の存在にまつわる問題なのだと。
誰しも一度は考えたことがあると思う、憧れる誰かの人生をもしも私が生きられたなら…という空想。しかし、そこにあるのは、いったい誰の人生なのか?結局は、自分の存在を認めて生かしてやれるのは、自分自身だけなのだという真実。
現代のサルトルは、愛を持って実存の切なさと、答えのない命題を投げかける。
#猫沢図書館
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2019/4/26