猫沢エミのインスタグラム(necozawaemi) - 6月8日 18時54分


バリー・ジェンキンス監督『ビール・ストリートの恋人たち』を観た。

舞台は1970年代。公民権が盛んに叫ばれる一方で、根強い黒人差別が現実として横たわるニューヨーク。デパートの香水売り場で働く19歳のティッシュと、アーティストを夢見るファニー。幼馴染みのふたりは、大切に愛を育み、ティッシュはファニーとの命を宿すも、不条理な冤罪でファニーは刑務所へ入れられてしまう。

テーマは真摯で重いものだけど、この映画はそれを軽々と凌駕する、優しみと愛に溢れていて、まるで観る者は両頬を温かい手のひらで包まれているかのように心地よい映画だ。

つい先日、ふと『差別とはなんだろう?』と考えた瞬間があった。私にとっては、下に見られることも、逆に妙に上に持ち上げられることも不快で、ましてや民族や肩書きでジャンル分けされることも嫌なのだ。

人ひとりとして、私に向き合って話し、好きか嫌いかで決めてもらうのが一番公平な評価なのだけど、世間はなかなか私の眼鏡と一致しないことも多い。私の眼鏡?これもまた勝手な基準なんだろうか…とも。

昔、フランスのディジョンを取材していたとき、マルシェの某スタンドの白人マダムにインタヴューを試みたところ『この私が、黄色い猿のあなたと何を話すことがあるのかしら?』と正面切って言われたことがあった。最初に出た言葉は『ウケる。』だった🤣だって可笑しすぎる。マダムの世界はあまりにも狭すぎて、ギャグみたいに思えたのだ。ここまで行かなくても、インターナショナルなパリですら、ときたまレイシストに遭遇することはあって、そのたび、彼らの中にある共通した〝怯え〟を見出した。器の小さな人間性、狭い了見、無学、駆逐される前にやりこめようという下卑た精神。

個人史のなかで消化できなかった苛立ちは、ある日歪んだ形で人を羨み、憎み始める。そうした、この社会で最も下衆な魂は、差別する本人をまず不幸にするっていう事実すら見えなくしてしまうのだろうな。

こうした辛い歴史を題材にした映画は、たいていその苦しみが前面に出てしまうものが多いなかで、ジェンキンス監督の、憎しみをも包み込んで消化してしまうような豊かな人間性が、この映画の柔らかい観心地となって、はっきり表れている。ふたりをとりまく家族の深い愛情、差別的な社会の中でも時折あらわれる良識ある人々。そうした無名の宝石たちが、ふたりの人生が決して不幸ではないことを示唆してくれる。

予定調和的でないラストシーンも、私は大いに涙した。現実を現実として描くことで、人生とは結果ではなく、そこへ向かう過程において、どれほど心を砕き、通わせたかによってその価値が決まるのだと教えられた。

どんな時代でも、国でも、自分自身でも、生きることは悪くない。うん、まったく悪くないと、劇場をあとにした。

#猫沢映画館 #ビールストリートの恋人たち


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2019/6/8

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