平野紗季子さんのインスタグラム写真 - (平野紗季子Instagram)「(ななな長いです)年末に届いた先月号の @nymag の表紙は去年NYで閉店したお店の数々で、店の記憶がひとつひとつ刻まれた特集を読んでいたらもうなんか色々溢れてしまったし、同時に思い返したのは、東京で、日本で、ドアを閉めた店たちのことだった。  「余力のない個人経営の小さな小さな喫茶店にとってコロナウイルスは空から降ってきた隕石のようなものです」から始まる、渋谷の喫茶店paris coffeeのお別れの挨拶には、喫茶の紡いだ歴史と人の記憶がぎゅっと詰まっていて涙が出た。こうして長年、街の色を作ってきた文化的に重要な店に残酷な幕切れを突きつけた現実を、その痛みを、忘れたくない。  「ずっと店をやってきたけどね、このところは居場所が無くなっちゃったように感じてね」。「やっぱりお客さんがたくさんきてくれないと張り合いがないね。でもまた来てもらえるときのために新しいデザートを考えたんだ」。「電話が一本でも鳴れば今日店にいる意味はあるから」。  いろんな声を思い出す。近所の飲食店の多くが休業を強いられて、そのかわりに店頭でお弁当を売り始めた季節のことを思い出す。駅前のよく行くお蕎麦屋さんのお母さんが外に立って数百円で売り始めたお惣菜が夕方になってもまだあって、立ち話をしながらきんぴらを買って「大変だけど、必要としてもらえるだけで嬉しいよ」と困ったように笑った表情を思い出す。この人は傷ついてる。そのことがありありとわかった。なのにどうすることもできなくて、お礼を言って数百円を渡すことしかできなくて、そんなんじゃこの人を癒すことはできなくて、それがわかっているだけに、悲しくてもどかしかった。  変容を強いられる世界の中で改めて気づかされたのは、街の飲食店が社会に対して様々な意義を孕んできた事実だ。ふらりと店に足を運んでしまう理由には、そのときその場でしか食べられない味の存在や(希少性と多様性、それは心身の健康に繋がる)、ときに巨大市場を経由しない食材との出会いがあって(品質の良さはもちろん寡占への抵抗でもある)、何より店の人々との関わりがあった(言葉を交わし、あるいは交わさなくとも、孤独や疲れが癒えること)。飲食店は単に飲食を提供する場ではなく、社会におけるコミュニティサービス、もっというとインフラの一部ではないかとさえ思う。街に店があることの価値は、とてつもなく大きい。  今この瞬間も、たくさんの決断を迫られながら、商いを守ろうと努力している飲食に関わるすべての方々、卸売業の方々、生産者の方々がいる。ただお気持ちを表明することしかできない自分の情けなさも噛み締めながら、それでも彼らのことを思っている。応援している。しかし納得のいく説明もなく飲食を槍玉にあげてくるからには公正な支援策を頼むよまじで…。」1月5日 17時31分 - sakikohirano

平野紗季子のインスタグラム(sakikohirano) - 1月5日 17時31分


(ななな長いです)年末に届いた先月号の @nymag の表紙は去年NYで閉店したお店の数々で、店の記憶がひとつひとつ刻まれた特集を読んでいたらもうなんか色々溢れてしまったし、同時に思い返したのは、東京で、日本で、ドアを閉めた店たちのことだった。

「余力のない個人経営の小さな小さな喫茶店にとってコロナウイルスは空から降ってきた隕石のようなものです」から始まる、渋谷の喫茶店paris coffeeのお別れの挨拶には、喫茶の紡いだ歴史と人の記憶がぎゅっと詰まっていて涙が出た。こうして長年、街の色を作ってきた文化的に重要な店に残酷な幕切れを突きつけた現実を、その痛みを、忘れたくない。

「ずっと店をやってきたけどね、このところは居場所が無くなっちゃったように感じてね」。「やっぱりお客さんがたくさんきてくれないと張り合いがないね。でもまた来てもらえるときのために新しいデザートを考えたんだ」。「電話が一本でも鳴れば今日店にいる意味はあるから」。

いろんな声を思い出す。近所の飲食店の多くが休業を強いられて、そのかわりに店頭でお弁当を売り始めた季節のことを思い出す。駅前のよく行くお蕎麦屋さんのお母さんが外に立って数百円で売り始めたお惣菜が夕方になってもまだあって、立ち話をしながらきんぴらを買って「大変だけど、必要としてもらえるだけで嬉しいよ」と困ったように笑った表情を思い出す。この人は傷ついてる。そのことがありありとわかった。なのにどうすることもできなくて、お礼を言って数百円を渡すことしかできなくて、そんなんじゃこの人を癒すことはできなくて、それがわかっているだけに、悲しくてもどかしかった。

変容を強いられる世界の中で改めて気づかされたのは、街の飲食店が社会に対して様々な意義を孕んできた事実だ。ふらりと店に足を運んでしまう理由には、そのときその場でしか食べられない味の存在や(希少性と多様性、それは心身の健康に繋がる)、ときに巨大市場を経由しない食材との出会いがあって(品質の良さはもちろん寡占への抵抗でもある)、何より店の人々との関わりがあった(言葉を交わし、あるいは交わさなくとも、孤独や疲れが癒えること)。飲食店は単に飲食を提供する場ではなく、社会におけるコミュニティサービス、もっというとインフラの一部ではないかとさえ思う。街に店があることの価値は、とてつもなく大きい。

今この瞬間も、たくさんの決断を迫られながら、商いを守ろうと努力している飲食に関わるすべての方々、卸売業の方々、生産者の方々がいる。ただお気持ちを表明することしかできない自分の情けなさも噛み締めながら、それでも彼らのことを思っている。応援している。しかし納得のいく説明もなく飲食を槍玉にあげてくるからには公正な支援策を頼むよまじで…。


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2021/1/5

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