実話小説③「卒業式という日」 あの告白以来、道長と一言も言葉を交わすことはなかった。 時の移り変わりは早いものだ。あれからどれくらいの月日が流れただろうか?何ヶ月?何年?もう覚えていない。 すいません。嘘です。これは僕の体感の話。実際にはたった2日間。道長と喋ることができていない。その2日間がとてつもなく長い日々に思えた。 道長は学校を休んだ次の日、何事もなかったかのように普通に登校して来た。 今までどんな話をし、なにで笑っていたのかを全く思い出せないでいた。たった一人の人間に話かけることがこんなにも恐ろしくて、怖いものなのかと感じたことはこの先の人生においてもないだろう。どうしても一歩が歩み出せない。高さ233メートルのマカオタワーのバンジーを飛ぶ数千倍の恐怖だと思っていただければいい。 マカオタワーのバンジー飛んだことないけど。 おはようの挨拶もろくにできないまま、あいつの斜め後ろ姿を見続けること3日。14才にして人生ってつまんね〜と思い始めたそんなやさき、1人の女が唐突に話かけてきたのだ。 「岡下!ちょっと来て!」 その女はそれだけを言い残し、セグウェイにでも乗っているかのようにスーと教室を後にした。 彼女の名前は高崎 志保(たかさき しほ)。 ぞくに言う道長の親友と呼ばれる人物。高崎は移動教室、お弁当の時間、部活終わりの帰り道、その全てを道長と共にしているこの話をするにあたり絶対に無くてはならない重要人物。クラスでも割と人気のイケてるグループの1人。 その高崎に呼び出しをくらった… 教室を出てすぐ右に階段の踊り場がある。その真ん中に彼女は腕を組んで仁王立ちし、生活指導の先生ばりの威圧感で僕を睨みつけている。 「弥生となんで喋らんの?」 やっぱり… 「何が?」 いつものように心臓はソーラン節の乱舞。顔もまぶた、鼻、口、ほっぺたを天井から糸で引っぱられてるかのように歪んでいた。 「だから!なんで?弥生と!喋らへんの?って!」 やめて… 「あぁ〜、そうやな〜、告白してフラれたし、その〜、話かけたら迷惑やと思って…」 「そんな訳ないやん!いつも通り喋るって弥生と約束したんやろ?」 「した」 「ほな喋り!」 その言葉と同時に高崎はスリッパのパシッ、パシッという足音を強めに鳴らしながら去って行った。 僕は呆然としていた。もし地球の重力が倍になればこれくらい身体が重たくなるだろう。心臓に直接、醤油をかけられたらこんな胸の痛みなのだろう。そんなことを考えながら、学校の階段の踊り場に宿る守り神のごとく、その場にひっそりと立ち尽くした。 その夜、思春期の僕の脳内は飯の事6%、部活や勉強の事2%、道長 弥生の事92%という驚異的な数字を叩き出したのだ。高崎のお叱りを受け、明日どのように話かけるかというシュミレーションを頭で何百回と繰り返した。 その結果。いける。話せる。笑わせれる。大丈夫だ。自信が確信に変わる。もう逃げない。 そう決めた次の日、そしてまた次の日も僕は道長 弥生と一言も会話をすることはなかった。 僕は中学の3年間ラグビー部に所属していた。全くラグビーなんて興味はなかったが小学校から仲が良かった先輩に誘われて入部を決めた。ラグビー部の先輩はみんな本当に陽気な人たちばかりでお笑いが好きで、調子ノリの僕にはぴったりの部活だった。部活が終わればすぐには帰らず、陽が落ちるまでラグビー、進路、性の悩み、宇宙の話、など何でも語り合った。 そんな僕の生活のど真ん中にいた先輩たちが中学を卒業する日がやってきた。 卒業式の当日、熱い言葉をみんなでかけあい、そんな泣いたら後で喉渇くで!ってくらいに泣きに泣いた。その後は朝礼台にみんなで座り、先輩がギターを弾き、ブルーハーツのリンダリンダを歌う始末。今考えるとお酒を一升以上飲んで、ベロベロじゃないと成立しない痛々しい状況だ。青春の1ページというか、青春って教科書があるなら1ページ目に載っている内容だ。 まぁ、そんなザ・青春を一通り終えて僕は教室に荷物を取りに戻った。教室には男女合わせて15人くらいいただろうか、みんな卒業式の余韻にひたり、悲しみが混じったなんとも言えないまったりした空間となっていた。 「岡下君。めっちゃ泣いてたな。」 その声に後ろを振り向く。そこには道長が立っていた。バケツに入った冷たい氷水をぶっかけられたのかと思うほど背筋がピンッとなった。 「見られてた?」 「うん。岡下君、いつもふざけてばっかりやから泣いたりするんやって思って見てた。」 「俺こういう感動のやつあかんねん。」 「めっちゃ意外!」 そういうと道長は吸い込まれそうなくらいの窪んだ深いえくぼを作って笑った。 つられて僕も笑った。 それは道長に告白して11日目のことだった。

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岡下雅典のインスタグラム(consuta_okasita) - 3月16日 18時50分


実話小説③「卒業式という日」 あの告白以来、道長と一言も言葉を交わすことはなかった。
時の移り変わりは早いものだ。あれからどれくらいの月日が流れただろうか?何ヶ月?何年?もう覚えていない。

すいません。嘘です。これは僕の体感の話。実際にはたった2日間。道長と喋ることができていない。その2日間がとてつもなく長い日々に思えた。
道長は学校を休んだ次の日、何事もなかったかのように普通に登校して来た。
今までどんな話をし、なにで笑っていたのかを全く思い出せないでいた。たった一人の人間に話かけることがこんなにも恐ろしくて、怖いものなのかと感じたことはこの先の人生においてもないだろう。どうしても一歩が歩み出せない。高さ233メートルのマカオタワーのバンジーを飛ぶ数千倍の恐怖だと思っていただければいい。
マカオタワーのバンジー飛んだことないけど。

おはようの挨拶もろくにできないまま、あいつの斜め後ろ姿を見続けること3日。14才にして人生ってつまんね〜と思い始めたそんなやさき、1人の女が唐突に話かけてきたのだ。 「岡下!ちょっと来て!」 その女はそれだけを言い残し、セグウェイにでも乗っているかのようにスーと教室を後にした。

彼女の名前は高崎 志保(たかさき しほ)。
ぞくに言う道長の親友と呼ばれる人物。高崎は移動教室、お弁当の時間、部活終わりの帰り道、その全てを道長と共にしているこの話をするにあたり絶対に無くてはならない重要人物。クラスでも割と人気のイケてるグループの1人。
その高崎に呼び出しをくらった…
教室を出てすぐ右に階段の踊り場がある。その真ん中に彼女は腕を組んで仁王立ちし、生活指導の先生ばりの威圧感で僕を睨みつけている。 「弥生となんで喋らんの?」 やっぱり… 「何が?」 いつものように心臓はソーラン節の乱舞。顔もまぶた、鼻、口、ほっぺたを天井から糸で引っぱられてるかのように歪んでいた。 「だから!なんで?弥生と!喋らへんの?って!」 やめて… 「あぁ〜、そうやな〜、告白してフラれたし、その〜、話かけたら迷惑やと思って…」 「そんな訳ないやん!いつも通り喋るって弥生と約束したんやろ?」 「した」 「ほな喋り!」 その言葉と同時に高崎はスリッパのパシッ、パシッという足音を強めに鳴らしながら去って行った。
僕は呆然としていた。もし地球の重力が倍になればこれくらい身体が重たくなるだろう。心臓に直接、醤油をかけられたらこんな胸の痛みなのだろう。そんなことを考えながら、学校の階段の踊り場に宿る守り神のごとく、その場にひっそりと立ち尽くした。 その夜、思春期の僕の脳内は飯の事6%、部活や勉強の事2%、道長 弥生の事92%という驚異的な数字を叩き出したのだ。高崎のお叱りを受け、明日どのように話かけるかというシュミレーションを頭で何百回と繰り返した。
その結果。いける。話せる。笑わせれる。大丈夫だ。自信が確信に変わる。もう逃げない。
そう決めた次の日、そしてまた次の日も僕は道長 弥生と一言も会話をすることはなかった。 僕は中学の3年間ラグビー部に所属していた。全くラグビーなんて興味はなかったが小学校から仲が良かった先輩に誘われて入部を決めた。ラグビー部の先輩はみんな本当に陽気な人たちばかりでお笑いが好きで、調子ノリの僕にはぴったりの部活だった。部活が終わればすぐには帰らず、陽が落ちるまでラグビー、進路、性の悩み、宇宙の話、など何でも語り合った。
そんな僕の生活のど真ん中にいた先輩たちが中学を卒業する日がやってきた。 卒業式の当日、熱い言葉をみんなでかけあい、そんな泣いたら後で喉渇くで!ってくらいに泣きに泣いた。その後は朝礼台にみんなで座り、先輩がギターを弾き、ブルーハーツのリンダリンダを歌う始末。今考えるとお酒を一升以上飲んで、ベロベロじゃないと成立しない痛々しい状況だ。青春の1ページというか、青春って教科書があるなら1ページ目に載っている内容だ。

まぁ、そんなザ・青春を一通り終えて僕は教室に荷物を取りに戻った。教室には男女合わせて15人くらいいただろうか、みんな卒業式の余韻にひたり、悲しみが混じったなんとも言えないまったりした空間となっていた。 「岡下君。めっちゃ泣いてたな。」 その声に後ろを振り向く。そこには道長が立っていた。バケツに入った冷たい氷水をぶっかけられたのかと思うほど背筋がピンッとなった。 「見られてた?」 「うん。岡下君、いつもふざけてばっかりやから泣いたりするんやって思って見てた。」 「俺こういう感動のやつあかんねん。」 「めっちゃ意外!」 そういうと道長は吸い込まれそうなくらいの窪んだ深いえくぼを作って笑った。
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それは道長に告白して11日目のことだった。


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2018/3/16

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