小林拓一郎のインスタグラム(kobataku33) - 3月6日 21時29分
平野啓一郎著『ある男』という本を読みました。
平野啓一郎作品は好きで、結構読んでますが、今回の作品は、著者が今まで言いたかったことの集大成のような作品でした。 『空白を満たしなさい』という作品では、「分人」という考え方を提唱。
人は誰でも、自分の中にいくつもの「自分」が存在していて、会う人、対峙する人によって、その「分人」たちを使い分けている、というもの。
会社で見せる顔、先輩に見せる顔、後輩に見せる顔、家族の中でも、両親に見せる顔、ワイフに見せる顔、子供に見せる顔。
人は誰だって自分を演じてるものとも言えるかも。
全部違う「自分」だと思うんです。 『マチネの終わりに』という作品では、「人の過去は変えられないものではなく、現在によって変えられる」というものの見方をテーマにしていました。
例えば、彼女とラブラブで行ったあの場所は、付き合ってる時は良き思い出だったけど、ひどい別れ方をしたら辛い場所になる。
逆もしかりで、大変な災難にあったからこそ、今のこの出会いがある、なんて風にも考えられるわけで、つまり、過去は現在によっていつだって変化する。
今回の『ある男』という作品では、この「分人」と「人の過去は変えられる」という二つのテーマをよりシンクロさせた物語でした。
どんな内容かというと、ある日突然、文房具屋で働く女性の旦那が、仕事場で危険な目にあって亡くなる、という訃報が届く。
関係はうまくいっていなかったけれど、その旦那のお兄さんを告別式に呼ぶ。
駆けつけたお兄さんが言った言葉が、「誰コレ?ええ?・・」。 遺影に飾られてる写真を見ても、このお兄さんからしたら誰かもわからない赤の他人。でも、名乗ってる名前、過去は全てこのお兄さんが知る弟。
つまり、他人になりすましてたわけです、この亡くなった男性は。
ここから、亡くなったこの「ある男」が一体何者で、何のために”他人”になりすましたのかというのを女性がお願いした弁護士さんが探っていくという物語。
こう書くと、ちょっとミステリーっぽくも聞こえるし、その要素は多分にあります。
が、それ以上に、「ある男」が「ある男」になりたいと思った動機や、「ある男」として、つまり他人の人生を踏襲することで生まれた人間くさいドラマが、この物語の本質であり、もっというと平野啓一郎作品の真骨頂のような気がします。
他人の過去を受け入れ、そこに共感する部分から自分らしさを見出し、自分の「分人」として自分を演じる。
そして、ある意味アドラー心理学的でもあるけれど、過去に縛られるんじゃなくて、「今」を強烈に生きようとした「ある男」の物語に、少なからず共感もしました。
そして、「ある男」以外の登場人物たちの複雑な過去も語られ、それが何層にも重なり合っていきます。「人の過去」って一体なんなんだろう、「今」を生きるのに、過去にこだわる必要なんて全く無いんじゃないか、なんてことを改めて考えた本でもありました。
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2019/3/6