山下航平のインスタグラム(kouhei_yamashita_official) - 7月15日 20時05分


『プレミアムアイスとアイスキャンディー』#フィクションエッセイ

テレビでコンビニのアイス特集をしていた。
灼熱列島で過ごす僕たちにとって、冷たいアイスは必需品だ。
最近のコンビニのアイスは品数が多い上にクオリティが高く、プライベートブランドのアイスも半端なく美味しい。その特集をみた僕は、会社帰りの日課となっているトレーニングジムのランニングマシーンの上で滝のような汗を流していた。
テレビの中でアイスを美味しそうに頬張っているタレントさんをみて、帰りに絶対買って帰ろうと決めた。テレビの持つ影響力はすごいのだ。

歳を重ね太りやすく痩せにくい身体にアップデートされている自覚のある僕は、できる限り毎日トレーニングをすることを日課として、体型維持に励んでいた。
しかし、いくら運動しても一向に痩せる気がしない。きっと誰かが、僕が寝ている間に口の中に食べ物を詰め込んでいるに違いない。
普段の食事もできる限りヘルシーなものを食べようと気をつけているし…
たまに仕事が立て込んでしまっている時はコンビニで買って済ませることはあるが、その時につい買ってしまっているフライドチキンのせいなのかもしれない。犯人は意外にも身近なところにいた。

人間が1kg痩せようと思ったら、約7,000kcalを消費する必要があるらしい。
デスクワークが中心の生活だと、運動はとても贅沢なものになる。
まったく…。いつからだろう?運動をするのにお金が必要になってきたのは。
少しでもカロリーを消費をしようと、これから食べるアイスのことを考えて、いつもより長く走ってみたけど、5分でやめた。贅沢は敵だ。
トレーニングを終えた僕の頭の中はアイスのことでいっぱいになっていた。着替えを済ませ、鼻歌を歌いながらエレベーターに飛び乗り、すぐ近くで煌々と輝くコンビニに夏の虫のように吸い込まれていった。僕がアイスケースの前に立つまでに時間はそうかからなかった。
今の僕は誰にも止められない。

先ほどまでテレビで紹介されていたアイスと念願のご対面を果たした。テレビで見たものと全く同じ姿をこの目で認識し、興奮した。
そして、ふと値札が目に入った。

『365円(税込)』

多少値段が張るのは知っていた。なんてたってこのアイスは「プレミアム」だ。
けど、前はもう少し安かった気がする。いや、安かったに違いない。
「少し見ない間に(値段が)大きくなったな。」
久しぶりに甥っ子に会った時の親戚のおじさんの常套句が脳裏をかすめる。

一旦冷静になろう。365円となると話は変わってくる。
昨今の食料品値上げの余波はここまできていたのだ。
3万品を超える食料品が値上げされた今年、プレミアムアイスを目の前にしたただの末端の消費者である僕に、将来の不安が押し寄せてきて、思わずアイスケースの前で呆然と立ち尽くしてしまった。
今の僕を止めたのは日本の経済状況だった。
『365円』
学生の時と違い、そのくらいの金額を払う余裕はもちろんある。もう僕はいい歳をした大人なのだから。

しかし、このプレミアムアイスをなんでもない日に買ってしまっていいのだろうか。仕事がうまく行ったわけでもない、なにかの試合に勝ったわけでもない、ましてや僕の誕生日でもない。

高校生の時、本当は食べたいアイスがあったのに、お金が無くて60円のアイスキャンディーを我慢しながら食べていた部活の帰り道を思い出す。
どうしようもなく金欠の時はコンビニの60円のアイスキャンディーすら買えなくて、自転車を20分走らせてスーパーで30円で売られている同じアイスを買いに行ったりもしていた。
その、アイスキャンディーは僕に寄り添ってくれているような気がして大好きだった。

でも、その時にふと気がついた、
自分の好きな食べ物は、あくまで自分の金銭感覚に見合ったものであり、
自分の金銭感覚に見合っているから好きなのではないかと。

僕は牛丼やうどんのチェーン店に頻繁に通っている。なぜなら美味しいから…。
いや?どうなんだ?味が美味しいのは間違いない。でも、食べれることなら毎日焼肉を食べて、回らない寿司を食べて、一度にまとめて出してくれないコース料理を食べたいんじゃないのか?

僕が大好きだったアイスキャンディーは、
食べたかったアイスが高くて手にできなかった自分が作り出した感情だったのかもしれない…
365円のアイスを鼻歌を歌いながら手に取ろうとしていた自分が突然怖くなってしまった。自分は変わってしまったのだろうか。高校生の僕がこの姿を見たらどう思うのだろう。

僕はプレミアムアイスを一度手に取り、
「うわー、脂質17gもあるじゃん。」
と小さな声で呟き、逃げるようにしてコンビニを後にした。

一度上がってしまった金銭感覚は戻らないと経験者は言う。
学生の時に比べて、自分の力でお金を稼ぐようになり金銭感覚は上がったのかもしれない。
しかし、学生の時の欲しいアイスを買えなかった帰り道を、60円のアイスキャンディーの爽やかな味を、僕は忘れてはいけないのではないのだろうか?

家に帰りながら、別のコンビニでアイスキャンディーを買った。
懐かしい味がした。僕はこの味が大好きだ。
アイスキャンディーの脂質は0gだった。

*このお話はフィクションです。


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2023/7/15

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