平泉春奈のインスタグラム(hiraizumiharuna0204) - 2月14日 20時04分
『沼恋プラットフォーム』
どうしても落としたい男ができた。
*
顔も体型も髪型も、匂いも声も仕草も
顎のラインも指の形もホクロの位置でさえ
すべてが自分の理想にカチッとハマっていた。
出会ったその日にセックスをした。
会うたびに、何度もした。
これまでにない位、最高の相性だと感じた。
それでも私はいつまでも
彼の恋人ではなかった。
まるでクレーンゲームの課金だった。
次こそは落とせる。これだけやれば落とせる。
今度こそ、今度こそ……
課金すればするほど削ぎ落とされていく自尊心。いつしか私は、彼に愛されない自分に何の価値も見出せなくなった。
「可愛い」
「なっちゃんのそういうとこ、好き」
「もっと一緒にいたい」
身体を重ねる時だけ囁かれる甘い言葉。
でも私の欲求を察知すると雲のようにすり抜け、いなくなる。
約束もない。デートもない。決して彼女にしてくれない。
“こんな男……”
そう思うのに、ふいに優しくされたり甘えられると、愛しいと思ってしまう。可愛いと思ってしまう。
必要とされたい。愛されたい。求められたい。
憎い。許せない。やめたい。終わりにしたい。
想いが複雑に絡み合う。
恋は矛盾に浸かったドラッグだ。
自分の中の正解を強引に歪め、
自ら罠にハマるよう誘導される。
“今度こそ終わりにしよう”
そう思った矢先、彼から突然LINEが届いた。
「今日仕事で千葉に来てるんだけど、今から来れない?なっちゃんに会いたいよ」
電車で2時間の場所だった。
もう会うべきではないと分かっている。
でも……
「行く」
その2文字だけ打ち込んで、急いで準備して家を飛び出す。途中でデパートを横切ると、1階の特設コーナーが目に入った。可愛いパッケージのチョコレートが山積みになっていて、初めて今日がバレンタインデーだということに気付いた。
悩んだ末に一番高いチョコレートを買って電車に乗り込む。
あと2時間したら彼に会える……
嬉しくて幸せで、どうしようもないほど胸が高鳴っていた。
駅に着いてすぐ彼に到着メールを送った。
返事が来ない。既読にもならない。不安が広がる。
駅のホームで待つこと30分。ようやくスマホから通知音が流れる。
「今日やっぱ無理になった。ごめんね。今度埋め合わせする」
視界がグラつく。
ああ、私はなんてバカなんだろう。
好きで好きで、大好きで、
惜しみなく愛情を注いできた。
自分をとことん貶めて、
盲目なまでに自我を見失った。
幸せな愛に辿り着けると信じた。
報われると願った。
一方通行な執着、依存、期待は
見るも無惨に崩壊していく。
目をキツく閉じる。堪えていた涙が頬を伝う。
私は声を出して泣いた。泣き続けた。
彼に会えなくて悲しいからじゃない。
自分があまりに可哀想で、哀れだったから。
その日以降もう二度と、彼に会うことはなかった。
*
あれから2年7ヶ月。
私は、また恋をした。
もう自分を見失うことはなかった。
穏やかな日常の中で同じ歩幅で歩き、同じ価値観を持ち寄りながら、そう遠くない未来を同じ目線で語り合える相手と、一緒に住んでいる。
過去にフタはしなかった。
盲目なまでに苦しみ抜いた鋭く尖った恋の記憶。それを思い返すたび、幸せな今を証拠づける。
あの日、あの駅のホームで、
私の新たな人生は既に始まっていたのだ。
私は決して、愛することを諦めない。
Fin.
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盲目な恋の末に知った、暗い闇の底。そこから這い上がる事で見えた光の景色。たとえ傷つき怖くなろうとも、愛することを諦めなくていいのです。
久しぶりの短編小説。友人の実話を元にしたオリジナル作品です。悲しいバレンタインデーのお話になってしまったけど、みんながみんな幸せな日になるとは限らないから…今年は切ない気持ちの人達に寄り添う作品にしました。長いけど最後まで読んでくれた方、本当にありがとう✨
そして最後に…ハッピーバレンタイン🍫
カップルさん、遠距離中の人、片想いしてる人、禁断の恋をしてる人。みんなが幸せな未来に向かっていけるよう願ってます。
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2023/2/14