nostos booksのインスタグラム(nostosbooks) - 8月6日 15時00分
《シュプレマティズムで芸術の歴史を動かした、マレーヴィチの信念と情熱》
芸術家の人生を年代順に追った画集において、1年〜5年という、ここまで小刻みな年単位で紹介したものというのは珍しい気がします。カジミール・マレーヴィチの芸術家人生がいかに語るべきことが多く、濃密なものであったかということに他ならないでしょう。
キュビズムやアール・ヌーヴォー、未来派などの影響を受けながら、多彩な作品を生み出したマレーヴィチ。
1915年、歴史に長くその名を刻む芸術が生まれます。画集のことばを抜粋すれば、「1915年はロシア諸芸術にとっての幸運の年である」。
この画集でいうとちょうど中盤あたりにさしかかると、直前の頁から一転、作風が驚くほどがらりとかわるのです。これがマレーヴィチが無対象を主義とする「シュプレマティズム」に達した瞬間です。このグラデーションのない鮮烈な変化、しびれます。
しかも当時、ミハイル・マチュージン(作曲家)を除いて、マレーヴィチのアトリエでこんな大革命が起こっていたとは誰一人知る由もなく、世界がその斬新な芸術のかたちを目の当たりにしたのは、氏がすでに30点もの無対象絵画を描き終えてからのこと。
ただただ静かに、歴史的な芸術は生まれていたのです。あぁどうしよう、すごくかっこいい。
しかし運命というのは残酷なもので、世界は第二次世界大戦へと突入。政治という大きな力に弾圧・翻弄されて、マレーヴィチをはじめとする前衛的な作品を手掛けていた芸術家たちは規制を余儀なくされます。
けれど、マレーヴィチの思考はそこで止まってはいませんでした。1920年代には、顔のない人物画を多数残しています。それは誤った方向へと進んでいく世界に対する、密かな抵抗を表しているかのようです。歴史をつくった芸術家の信念と情熱はかくも強い。
本書は海外版も出ていますが、こちらは丁寧な解説もじっくり楽しめる日本語版。作品を大判で堪能できる画集でありながら、偉大な芸術家の伝記としてもぜひ楽しんでいただけたらと思います。
『マレーヴィチ画集』の詳細は[商品タグ]からご覧ください。
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2020/8/6