北欧、暮らしの道具店のインスタグラム(hokuoh_kurashi) - 5月12日 10時00分

【スタッフコラム】母のコーヒーカップが特別だった頃

GW前のある日。ふと、九州の母からLINEが届きました。
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「あなた、うちの食器棚にある『ARABIA』のカップ欲しがっていたでしょう。GWに帰ってきた時にあげようね」
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えっ、あの青い『ARABIA』のカップを？
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「うん。お父さんもお母さんも、もうコーヒーを飲まなくなったから。持ってても使う機会がないからねぇ」
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でもそれは、実家にある器のなかで最も特別なもので、しかも両親が結婚記念の節目に揃えたものだったような……。
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正直いつかは欲しいと目論んでいたアイテムだけれど、もっと遠い未来でと思っていたから。
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なので嬉しい反面、実際にもらうまで、何か裏があるんじゃないかと思っていた（ごめんねお母さん）。
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GWに帰省して、カップを受け取りながら、キッチンにある大きな6段構えの食器棚の前に立っていると、幼い頃の記憶を思い出した。
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背が伸びて、食器棚の一番上の棚まで見渡せるようになったのは小学5年生でしょうか。
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はじめて覗いた棚の最上段に、鎮座していたのが、ARABIAのコーヒーカップでした。
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幼い目でみてもわかる、唯一高級そうな深く美しい青色。
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これだけは触っちゃダメだと、幼いながらに思ったんだったなぁ。
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今はもう、大きいと思っていた食器棚は、手を伸ばせば私の方が高い。
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でもまだ、このカップは自分の身に余る気がする。
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それでも少しずつ、生活に馴染むように、大切に迎え入れよう。
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帰省の最終日。トランクのなかでカップが割れないようにと、大事に緩衝材を巻きつける母の姿をみてそう思った。
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余談ながら、帰省で苦手なことがふたつあります。
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ひとつは、帰りのフライトで、手荷物検査の列に並ぶ瞬間。振り返れば、母がいつまでも見送っているのがわかるから。
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もうひとつ苦手なのが、長旅を終えたあと、自分の家のドアを抜ける瞬間です。
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しばらく誰にも使われていなかった家にただよう、あの特有の匂いに、独りを思い知らされるから。
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だけどね、お母さん。今回はちょっと違っていて、家に入れば、このコーヒーカップをトランクから取り出して、戸棚に加えることができる。
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そう思うと、ドアノブがいつもより軽かったんだよ。
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コーヒーを飲むために使わずとも、このカップから既にパワーをもらったことを、母はきっと知らないままでいます。
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(スタッフ糸井)
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