「したっけオレ、愛華さんと出かけるわ!」 ムロ君は愛華の左手をつかむと、一気に走り出した。 「えっ!?ム、ムロ君!?」 戸惑いを感じた愛華であったが、 その刹那、一方のムロ君も内心狼狽していた。 おもむろにつかんだ左手の薬指に、硬い金属の感触があった。 まったくの迂闊である。 愛華はすらりとして、実年齢よりも若く見えた。 その左手の細い指を見る隙も無く、 彼は目の前の女性に、心奪われていたのである。 「オ、オレ…やっぱひとりで行くわ。し、したっけな…。」 ムロ君は慌てて手を離し、残雪が凍てつく路面を駆けて行く。 肌を刺す突風。揺れるリーゼント。 ムロ君の胸中は自身の髪先よりも大きく揺らぎ、 そして、冷たい感触にゆっくりと支配されていく。 ◆◆◆ 3月14日 水曜日。 今朝の札幌は小雨が所々で降り、時折冷たい風が吹いた。 そんな天候にも我関せずとばかり、 ムロ君はトボトボとした足取りで、 自身が通う市茂荷高校に向かっていた。 「ホワイトデーとはよく言ったもんだな…。」 あの件以来、頭の中は真っ白であった。 沢山の女子からもらったチョコレートのお返しなど、 到底、用意する気分にはなれなかった。 もちろん、何かお返ししなければ…という思いはあった。 ところが、ホワイトデーの事を考える度、 一瞬で目を奪われた愛華の顔が脳裏に浮かび、 胸がギュッと苦しくなる。 と同時に、ある種の防衛機制とでも言うのであろうか、 極寒のホワイトアウトにも似た、真っ白な虚無感が彼を襲い、 結局、今まで何の行動もできなかったのである。 宿題を忘れても何食わぬ顔で登校する彼も、 流石に今回ばかりは、学校までの足取りが重い。 「ム〜ロくんっ!」 ムロ君の右肩が背後から軽く叩かれると、 その右耳に甲高い、聞く人によっては不快とも思える、 いかにも無遠慮で、女子っぽい声が響いた。 「めぐみ…。」 「はいっ!これプレゼント!」 「えっ、何で!?オレ、まだお返ししてないけど…。」 「“お返し”って、何のこと?」 「きょうは男子が女子にお返しする日だろ。 女子が続けてプレゼントするのって変じゃねぇの?」 「どうして?きょうは円周率の日だよね。」 「円周率?」 「3月14日!さんてんいちよん! ムロ君、数学苦手でしょ?だからはい、プレゼント!」 めぐみは可愛らしくラッピングされた袋を差し出した。 中には、いかにも甘そうなパイが入っている。 「おとといから暗い表情。ムロ君らしくないよ。 甘い物食べたら、きっと元気が出るよ!」 “甘い物”と“元気”が一体どう結びつくのか、 ムロ君は全く理解出来ずにいたが、 少々押しつけがましい彼女の言葉が、 今は何故だかピッタリと、彼の心に寄り添った。 その瞬間、ムロ君の眼前は狭く真っ白だった世界から、 色鮮やかに彩られた景色へと変わっていった。 きょうは円周率の日。 そう考えると、胸の奥底で燻っていた何かが解け、 少しずつ気持ちが楽になっていく。 「めぐみ…。」 「何?ムロ君?」 「今気づいたんだけどさ…。オレ、めぐみのコト…。」 「えっ、なにっ!?ムロ君っ!?」 ムロ君はめぐみに近づくと、真っ直ぐな眼差しを向けた。 めぐみはその視線を受け止めきれずに、思わず顔をそらす。 自分の心臓が激しく高鳴っているのがわかる。 (ああっ神様っ!時間を止めてよっ!勇気を持ってめぐみっ! で、でもっ、やっぱりムロ君を見つめ返すなんてムリっ!!) めぐみは紅潮させた顔をゆっくりと挙げると、 緊張で小さく震えながら、彼のリーゼントに焦点を合わせた。 ビュウウウゥッ…。 そのフワフワとした黒い固まりは、微かな風にも揺らめいた。 それに合わせ、めぐみの瞳は右に左にと、小刻みに動く。 相手に深呼吸をされながら、その髪先を見つめられているとは、 露ほどにも思っていないムロ君が話を続けた。 「オレ、めぐみのコトバ…。今さら気づいたぜ。 円周率だからパイなんだな。ハハッ、面白れぇな。 オレもちょっと今からパイ買ってくるわ!したっけなっ!」 ムロ君は意気揚々とめぐみにそう告げると、 肌寒くも早春の息吹を感じ始めた街角に、颯爽と消えていった。 めぐみの手には、差し出したパイが残っている。 「てへっ、私ったら、とんだ勘違い。 ふふっ、でもきょうはパイとパイの交換になりそうね。」 パイが2つで2π。 これに私とムロ君の距離、半径rをかければ、 きっと、2人の円周が見えてくる…。 めぐみはそんな意味不明の妄想をしながら、 ムロ君へのプレゼントを、そっとカバンの中にしまい込んだ。 みなさんに素敵なホワイトデーと、 円周率の日が訪れますように!! #イチオシモーニング #イチモニ #あいりチャンネル #ホワイトデー #円周率の日 #3月14日 #大野恵 #室岡里美 #めぐみとムロ君 #芳賀愛華

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北海道テレビ「イチオシ!モーニング」のインスタグラム(htb_ichimoni) - 3月14日 13時05分


「したっけオレ、愛華さんと出かけるわ!」
ムロ君は愛華の左手をつかむと、一気に走り出した。
「えっ!?ム、ムロ君!?」
戸惑いを感じた愛華であったが、
その刹那、一方のムロ君も内心狼狽していた。
おもむろにつかんだ左手の薬指に、硬い金属の感触があった。
まったくの迂闊である。
愛華はすらりとして、実年齢よりも若く見えた。
その左手の細い指を見る隙も無く、
彼は目の前の女性に、心奪われていたのである。
「オ、オレ…やっぱひとりで行くわ。し、したっけな…。」
ムロ君は慌てて手を離し、残雪が凍てつく路面を駆けて行く。
肌を刺す突風。揺れるリーゼント。
ムロ君の胸中は自身の髪先よりも大きく揺らぎ、
そして、冷たい感触にゆっくりと支配されていく。
◆◆◆
3月14日 水曜日。
今朝の札幌は小雨が所々で降り、時折冷たい風が吹いた。
そんな天候にも我関せずとばかり、
ムロ君はトボトボとした足取りで、
自身が通う市茂荷高校に向かっていた。
「ホワイトデーとはよく言ったもんだな…。」
あの件以来、頭の中は真っ白であった。
沢山の女子からもらったチョコレートのお返しなど、
到底、用意する気分にはなれなかった。
もちろん、何かお返ししなければ…という思いはあった。
ところが、ホワイトデーの事を考える度、
一瞬で目を奪われた愛華の顔が脳裏に浮かび、
胸がギュッと苦しくなる。
と同時に、ある種の防衛機制とでも言うのであろうか、
極寒のホワイトアウトにも似た、真っ白な虚無感が彼を襲い、
結局、今まで何の行動もできなかったのである。
宿題を忘れても何食わぬ顔で登校する彼も、
流石に今回ばかりは、学校までの足取りが重い。
「ム〜ロくんっ!」
ムロ君の右肩が背後から軽く叩かれると、
その右耳に甲高い、聞く人によっては不快とも思える、
いかにも無遠慮で、女子っぽい声が響いた。
「めぐみ…。」
「はいっ!これプレゼント!」
「えっ、何で!?オレ、まだお返ししてないけど…。」
「“お返し”って、何のこと?」
「きょうは男子が女子にお返しする日だろ。
女子が続けてプレゼントするのって変じゃねぇの?」
「どうして?きょうは円周率の日だよね。」
「円周率?」
「3月14日!さんてんいちよん!
ムロ君、数学苦手でしょ?だからはい、プレゼント!」
めぐみは可愛らしくラッピングされた袋を差し出した。
中には、いかにも甘そうなパイが入っている。
「おとといから暗い表情。ムロ君らしくないよ。
甘い物食べたら、きっと元気が出るよ!」
“甘い物”と“元気”が一体どう結びつくのか、
ムロ君は全く理解出来ずにいたが、
少々押しつけがましい彼女の言葉が、
今は何故だかピッタリと、彼の心に寄り添った。
その瞬間、ムロ君の眼前は狭く真っ白だった世界から、
色鮮やかに彩られた景色へと変わっていった。
きょうは円周率の日。
そう考えると、胸の奥底で燻っていた何かが解け、
少しずつ気持ちが楽になっていく。
「めぐみ…。」
「何?ムロ君?」
「今気づいたんだけどさ…。オレ、めぐみのコト…。」
「えっ、なにっ!?ムロ君っ!?」
ムロ君はめぐみに近づくと、真っ直ぐな眼差しを向けた。
めぐみはその視線を受け止めきれずに、思わず顔をそらす。
自分の心臓が激しく高鳴っているのがわかる。
(ああっ神様っ!時間を止めてよっ!勇気を持ってめぐみっ!
で、でもっ、やっぱりムロ君を見つめ返すなんてムリっ!!)
めぐみは紅潮させた顔をゆっくりと挙げると、
緊張で小さく震えながら、彼のリーゼントに焦点を合わせた。
ビュウウウゥッ…。
そのフワフワとした黒い固まりは、微かな風にも揺らめいた。
それに合わせ、めぐみの瞳は右に左にと、小刻みに動く。

相手に深呼吸をされながら、その髪先を見つめられているとは、
露ほどにも思っていないムロ君が話を続けた。
「オレ、めぐみのコトバ…。今さら気づいたぜ。
円周率だからパイなんだな。ハハッ、面白れぇな。
オレもちょっと今からパイ買ってくるわ!したっけなっ!」
ムロ君は意気揚々とめぐみにそう告げると、
肌寒くも早春の息吹を感じ始めた街角に、颯爽と消えていった。

めぐみの手には、差し出したパイが残っている。
「てへっ、私ったら、とんだ勘違い。
ふふっ、でもきょうはパイとパイの交換になりそうね。」
パイが2つで2π。
これに私とムロ君の距離、半径rをかければ、
きっと、2人の円周が見えてくる…。
めぐみはそんな意味不明の妄想をしながら、
ムロ君へのプレゼントを、そっとカバンの中にしまい込んだ。
みなさんに素敵なホワイトデーと、
円周率の日が訪れますように!!
#イチオシモーニング #イチモニ #あいりチャンネル #ホワイトデー #円周率の日 #3月14日 #大野恵 #室岡里美 #めぐみとムロ君 #芳賀愛華


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2018/3/14

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